「寂しさの燃ゆ」
「……理詰めなんです」
「は? 理詰め?」
「ええ、義でしょう、おれ。理詰めなんです」
現八はきりきりと眉を寄せた。彼の言わんとするところがまったくわからない。けれどそれを口に出すのは控え、荘助の言葉を辛抱づよく待つ。
「恩は恩、義理は義理…情が入る余地のない」
「──、ああ」
「だから…蟇六夫婦を憎んでいても、主人と思えば陣代も殺せるし、たとえば里見公が悪政をしくならおれは斬るに吝かでない。えげつないですよね」
信乃さんにはできないでしょうね、とうらやむ眼差しで昏昏と眠る信乃を見やる。悲しいような怒ったような、わずかな本音がほろりと落ちる。
「できない信乃さんがかわいいんです。守らなくちゃと思う、……だけど、もう半分で、腹立たしいとも思うんです」
「ああ」
そしてそれきりしばらく沈黙する。すうすうという仲間たちの寝息に耳をかたむけ、荘助はじっと何かを考えている。無機のように静かな横顔を見ながら、現八も少しく過去に思いを馳せた。他愛もない、笑顔ばかりだった子どものころ。
(……俺は、こいつとはあまりにかけはなれた子どもだった…)
何ひとつ共有などはできはしない。荘助の苦しみを分かつことも、賛同も、否定も。だから、現八はただこれだけを言った。
「……おまえ、男だな」
「え?」
「そうやって、まっとうに、生きてきたんだろう…」
「え」
荘助は顔をくしゃりとゆがめて、ゆるゆるとうつむいた。組んだ両手に白く力が入っている。やがて押し殺した声で、小さくいうのが聞こえた。
「……おれ、ちょっと、みっともなかったですね」
「ま、酒の席での愚痴ってことで。そら呑もうぜ」
「……いただきます」
そこらに転がっていた盃を拾いあげて酒を注ぎ差し出すと、荘助はかっと一息にそれを干して、また突き出してきた。
「…おまえ、けっこう呑むのな。潰れてもいいぜって言おうと思ったのに」
「ええ、おれ、お酒は強いほうですよ」
「そうか。…潰れてもいいぜ、俺がいるからな」
「あは、おれがいなくても、ここどうやって片づけるかわかるんですか」
と笑って、荘助はまた徳利をかたむけた。彼は今、信乃を守ることが、荘助を守ることと同義であったのを知っている。強い男だ、と現八はもう一度心中でつぶやいた。
(終)
酒すすればわが健かの身のおくに
あはれいたましき寂しさの燃ゆ
(若山牧水「路上」)
(荘助と信乃は互いにぐじゃぐじゃなコンプレックスがあると思う。仲間がそれを緩和してくれるといい)