「寂しさの燃ゆ」
「あれ、おれ…でも毛野さんは怖いんでしょう?」
「は、おまえ、毛野じゃないだろ」
いえば荘助はますます目を丸くする。──なぜそんな顔をするのか、こちらが問いただしたいところだ。
「おれ、毛野さんですよ」
「は?」
「もしかしたら毛野さんよりえげつないかも」
「待て、ついていけん」
現八がさえぎると、荘助はようよう口をつぐんだ。ぽつぽつとする瞬きすら丁寧に、現八を見上げている。
「おまえ、酔ってる?」
「…そうかもしれません」
「ああ、そ。……で何、俺には、おまえはただの世話好きのお人好しに見える」
「やだなあ、そんなわけないじゃないですか」
と荘助は猫のように目を細めて笑った。らしくない仕草のむこう、翳った感情がかすかに見える。
「……知ってました」
「は」
「ずっと──信乃さんはおれだと。だから、守った。すくなくとも、おれはそう思って、信乃さんのそばにいました」
気負いがないようで、そのくせとがった一瞥をちらりと寄越す。目が合うと離せなくなった。挑むような臆したような、複雑な色の感情だった。
「だけど信乃さんは優しかった。おれにも浜路さんにも…それどころか蟇六夫婦にも。おれなんか、蟇六たちが早く死ねばいいと思ったことが二度や三度じゃなかったのに」
うすくふくんでいた笑みすらどこぞへ消えて、あとには怯えを見せまいとこわばった顔が残る。先のようにやわらかでない、これは、荘助の苦しい過去だ。自嘲のように身構えた目、卑屈と誇りが半端に残った口調を感じて、現八は思う。
──未だに苦しんでいる彼の、なんと潔いことであろうか。
「信乃さんはちっともおれでなかった。そんなことは知ってました、けど、怖かった…どうしてそんなにきれいなんだろう」
「…ん」
荘助が目蓋を伏せて、ほう、と息をついた。幼くない疲れがそこににじむ。